ひとこまコラムリターンズ 第38走者

大人への憧れ   2021/10/28更新 

『夜は短し歩けよ乙女』


『夜は短し歩けよ乙女』
森見登美彦【著】
KADOKAWA
(2006/11)

 「いままで読んだなかでいちばんおもしろかったです!」との言葉とともに返却されたのがこの本でした。「自分でも買っちゃいました。京都の大学生いいなとか、お酒飲んでみたいなとか……大人になるのが楽しみになりました」借りていた生徒の語る姿はあまりにもまぶしく、わたしは反照のように再読を誘われるのでした。
 いわずと知れた森見登美彦によるベストセラー小説です。京都を舞台に、大学一回生の「黒髪の乙女」と彼女に想いを寄せる「先輩」の一年間が描かれます。読みかえして気づいたのは、ふたりをはじめとする登場人物が存外に大人だということでした。彼らは夜の先斗町で酌みかわし、下鴨の古本市を味わい、ひとり暮らしの床に風邪で臥せります。高校にもあるはずの学園祭でさえ、またちがった青春の輝きを呈しているようです。
 学校図書館で働きはじめて半年、とりわけ難しいと感じる業務に小説の選定がありました。ティーンエイジャーを主人公とする新刊をいれてみても、無条件に貸出が伸びるとはかぎりません。そんななか、大学生ひいては大人への憧れを喚起する本書はひとつの解と思わせるものでした。
 さきに述べた生徒の将来の夢は、学校司書になること。司書課程に加えて学びたい専攻のある大学を志しているといいます。彼女ら在校生が希望をもって自らの進路に向かえるよう、これからも本などを通じて支援していきたいです。

<美玲>
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