ひとこまコラムリターンズ 第91走者

スランプを味方に 2026/05/01更新

『シャーロック・ホームズの凱旋』
『シャーロック・ホームズの凱旋』
  【著】森見登美彦
 中央公論新社
 (2024.01)

 時はヴィクトリア朝時代の京都。稀代の名探偵シャーロック・ホームズは、超絶スランプの真っただ中にいた──。
 新採用として着任し、ようやく1ヶ月半ほどが経過したころ。まだまだ慣れないことだらけで、多感な時期の生徒たちと接するのに必要以上に緊張してしまい、言葉を選びすぎておぼつかない声掛けをしてはいつも怪訝な顔をされていました。
 前職で図書館勤務経験があり、利用者対応には慣れているはずでしたが、なんだか全てが思うようにいきません。そんな超絶スランプの中、以前読んだ作品に出てきた「何をやってもうまくいかないホームズ」の姿を思い出しました。思い切って選書してみたところ、生徒から初めて笑顔で手に取ってもらえたのがこの本でした。
 「これ本屋さんで見かけて気になってました。図書館にも入ったんですね!」「前に読んだけどすごく面白かったよ」「本当ですか!絶対読みます!」
 その後も自然と会話が弾み、この本を含む数冊が貸出に繋がりました。それをきっかけに一気に肩の力が抜け、ふと気づいたときには超絶スランプもとっくに脱していました。
 学校司書となってようやく1年。先日このコラムに何を書こうか考えていると、ちょうどあの時の生徒が来館しました。久しぶり!と声をかけると、「忙しくてなかなか来られなかったんです!」と言いながら嬉しそうに本を借りていきました。作品の魅力をもって学校図書館で働く楽しさを教えてくれた一冊です。



<H.Y>
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