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ある日の図書館雑記より 2013/3/19更新 【チームやまゆり #9】

『いちご同盟』 『いちご同盟』
三田誠広【著】
集英社
(1991/10出版)

 ある日、図書館によく来るけれど余り喋ったことのないk君が、授業が始まったあとも閲覧室にいたので話しかけてみると、何となく授業に出たくない気分であるとのこと。 話を聞いてみると、どうやら彼の中で自分が目指す理想像と、周りも含めて漫然と日々が流れていく日常とのギャップに孤独感やもどかしさを感じることがあり、日々の授業にも 「なんか、こんなの出てても意味ないんじゃないか」との思いに囚われることがあるらしい。普段殆ど話したことのない彼が色々と自分の思いを話すことは驚きだった。
 ちょうど同じ日、別の生徒から「これは良かったです!」とコメント付きで三田誠広の『いちご同盟』が返却されてくる。死への親近感を抱く中学3年の良一は、ある日ふとしたきっかけで 野球部のエース・徹也と、彼の幼馴染である直美と深く関わるようになってゆく。重い病で入院する直美をいたわる徹也、そして次第に良一も彼女に惹かれてゆき・・・、という1990年に 単行本が刊行されたこの小説は生と死がテーマとなっていており、少年の将来に対する不安や焦り、その反動として死への傾斜、直美の死による少年の喪失感や成長が描かれている。
 その中に、「・・・たぶん彼らには、こんな風に生きたいという理想があったはずだ。その理想と、現実の自分との距離が、彼らを死に追いやった・・・」という一文を見つけ、直接的なテーマや ストーリーとは全く関わらないが、先程来たk君を思い出す。少なくともこの本を返却した生徒も含めて、自分の夢や理想像と現実の自分との落差に対する焦りや不安というのは、何年経っても 変わることのない若者の共通する思いなんだろうなということを、その日は改めて思い起こしたのであった。

<過去の若者>
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