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キティくん、お元気ですか?  2016/03/18更新  【チームひつじさん #45】

『いつか帰りたいぼくのふるさと―福島第一原発20キロ圏内からきたねこ』 『いつか帰りたいぼくのふるさと
  ―福島第一原発20キロ圏内からきたねこ』
大塚敦子【写真・文】
小学館
(2012/11発売)

 最近のネコブームはネコ好きにはうれしいかぎりだ。雑誌やTVでの特集も多くなっている。「ネコグッズ」や「ネコ本」も増えた。シマリスやウサギ、インコの本も平等に生徒の眼にとまるように置いているが、「カワイイ!」の声は、ネコ本に向けられているように錯覚してしまう。生徒がいない時、司書は癒し系のネコ写真集など見て、思わずニンマリしてしまうのだが、これはそういうわけにはいかない。
 主人公で語り手のキティは福島県大熊町に住んでいた。農業を営む7人家族に可愛がられのんびりと暮していたが……ある日、いきなり地面が揺れ始め、キティの周りの塀や物がたくさん壊れた。しばらくして揺れは収まったがキティは怖くて小さく固まっていた。次の日帰宅すると、家族はだれもいなくなっている。お皿に山盛のごはんがなくなっても誰も帰ってこない。副題のとおり、キティが住んでいた家は福島第一原発から4キロのところにあったが、東日本大震災とその後の原発事故のため、避難していたのだ。空腹でしばらくさまよっていた時、白い防護服の人に保護され、新しい家族と東京で暮らすことになった。
 ここにはボランティア団体が、警戒区域内の動物たちを保護する活動が書かれている。キティの新しい家族の大塚さんはフォトジャーナリストだ。「被災地のために何かしたい」と、動物愛護団体のHPで、高齢で片目を失明しているキティのことを知り、引き取ることを決めたそうだ。キティが新しい家族をみつけるのは困難ではないか、と思ってのことだ。
 福島の一家は全員無事で1年後にキティとも再会したが、離散したままだ。放射能に汚染された地域にある自宅には、一時帰宅しか許されていない。
 キティは今も東京で暮らしているそうだが、10歳(出版当時)のキティが福島の家族と暮らせるようになるのはいつだろうか。

 どうして、ぼくたちは、ふるさとを失わなければならなかったんだろう?

 フワフワの大きな茶トラのネコ、キティの言葉が、心に突き刺って痛い。  

<柳 雪香>
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