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保護者世代が感激?  2017/05/02更新  【チームつながる輪〜 #58】

『エレナーとパーク』

『エレナーとパーク』
ローウェル,レインボー【著】
三辺 律子【訳】
辰巳出版
(2016/02発売)

 1986年のアメリカを舞台とした高校生のせつない恋の物語です。二人の視点からそれぞれが見たもの、感じたことがおおむね交互に綴られていきます。
 エレナーは様々なコンプレックスを持つ転入生。母や折り合いの悪い継父、弟・妹たちと住む狭く貧しい家には、十分な食べ物もプライバシーもなく、休まることのない毎日です。学校も安心できる場所ではありませんでした。パークは退役軍人の父と韓国人の母を持つ少し小柄な高校生。仲の良い両親に大切に育てられています。スクールバスで隣同士となった二人は、初めは口もきかず距離を置いていましたが、教室や登下校のバスで少しずつ相手のことを知り、心を通わせるようになります。
 携帯電話などなかった時代、それどころかエレナーの家には固定電話さえなかったので連絡をとるのは難しく、外出も容易ではありませんでした。しかしそのもどかしさゆえ、思いはつのるのです。そして……。
 日本発のカセット式携帯音楽プレーヤーが世界中の若者を夢中にしていたころのお話で、二人の仲をとりもつ当時の音楽や、LPをダビングしてベストアルバムを作る場面などは、今の中高生の保護者以上の世代に訴えるところがあるかもしれません。
 学年末に本書を読んでくれた中一の生徒に「どうだった?」と尋ねると、「エレナーが置かれたような環境で生きるのは私には無理。でもパークがいてくれてよかった。」という内容の感想を、いつものように自分の言葉で語ってくれました。電話に出る時に親の目が光っていた当時のたいへんさにも、気づいてくれたようです。本で世界を広げ続ける彼女が次は何を読んでくれるか、楽しみにしています。

<おいにけらしな>
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