ひとこまコラム 

生徒に完敗  2015/03/24更新  【チームやまゆり #33】

『あしたはうんと遠くへいこう』 (角川文庫) 『あしたはうんと遠くへいこう』 (角川文庫)
角田光代【著】
角川書店
(2005/02出版)

 生徒に完敗した、と思ったことがあります。角田光代の割合初期のころの作品『あしたはうんと遠くへいこう』を巡ってです。
 主人公の泉の、十代の終わりから三十代にかけて、失敗ばかりの恋愛の数々が描かれています。私はこれを読んで、なぜ同じ失敗ばかりを繰り返す?"学習しない主人公"と決め、特に生徒に薦めることもありませんでした。
 ところがある日、この本を借り出した三年生の女子が「とっても面白かった?」と言って、返しに来ました。意外に思い、どこが?と尋ねると、自分も主人公と同じような失敗をするんじゃないか、身につまされ切実に思ったと言うのです。なるほど。そこで、その感想をポップに書いてもらい、表紙を見せて棚に展示してみました。すると、そのポップを読んだ女子生徒が何人か借りていくようになりました。
 そうかぁ、みんなまだ高校生だもんね。恋愛が成就したり、失敗したりもこれからの経験だよね。期待と不安のないまぜの心情を、角田さんが代弁してくれていたんだね。私は改めて、生徒たちの清新な部分に触れた気がしました。
 司書のおススメなんかはね飛ばす、同年代だからこそわかる思いを、次々に共鳴させた出来事でした。

<中畑 桂子>
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