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更新日:2025年5月27日

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令和7年3月3日 卒業証書授与式 校長式辞 井澤 克仁

一部抜粋

ただいま247名の卒業生の皆さんに卒業証書をお渡ししました。保護者の皆様、本日は誠におめでとうございます。この3年間、あるいは18年間のご苦労を考えたときに、様々な思いが胸に浮かぶことと思います。お子様のご卒業を心からお祝い申し上げます。おめでとうございます。

さて皆さんは、この3年間で、誰と最も長く共に過ごしましたか。友だち、先生、家族、ではなくそれは、スマホだと私は思います。今日の高度情報化社会の中で、スマホでググってみれば、勉強のコツ、ダイエットの仕方、お金の稼ぎ方に至るまで様々な情報を見つけることができます。AIに聞けば、専門家でない限り、満足できる答えを聞くことができます。スマホは、コストパフォーマンスを常に意識して効率的にやってやろうとする私たち人間にとっては、常に最適な答えを示す最高のツールです。スマホは私たちにとって、間違いなく最良の友であると言えるでしょう。そしてそのように効率のいいやり方を勧めてくれる友と、高校生活を通して、勉強、部活、アルバイト、趣味などどんなことでもいい、100パーセントの自分、全力の自分を出すことができましたか。そして悔いのない3年間を過ごせましたか。この問いに対して、もっとあの時こうしておけばよかった。もっと頑張ればよかった、どこかで妥協してしまった。と多くの皆さんがやりきれなかった自分を思い浮かべています。スマホを通して著名人から、AIから「コスパのいい人生のやり方がこれです。」と示されれば、効果的かわからないものを全力で試すような人はいないでしょう。試行錯誤を止めて、効率的と言われているものに飛びつきます。それは仕方のないことかもしれません。ただ気になるのは、そのやり方に従っていたのに、多くの人がやりきれずに後悔しているという点です。効率を求めて全力が出しきれない人々が溢れているこの状況で、今日は、本当に大切なことを皆さんに教えたいと思います。

「人は、社会は、本当に大切なことを決して教えてはくれない」ということです。そして、後悔のない人生を送るためには、他人に教えられた効率的な方法に依存するのではなく、自分で考え、自分で選択し、絶え間ない努力をして物事に立ち向かうことが何より大切なのではないでしょうか。「なぜ、人は、社会は、本当に大切なことを決して教えてはくれない」のか。それは、努力して見出した方法を簡単に教えれば、それを知った人は自分のレベルまで容易に到達でき、そして超えられてしまう可能性があるからです。残念ながら、人は他人と異なることに価値を見出す生き物です。他人との比較、社会での比較を通して、自分の能力の程度や考えの正当性を評価します。自尊感情を高める、あるいは低下させないためにも、人は人と同じではいられないのです。もちろん、人はお金と引き換えに知識や情報、ノウハウを共有することはあります。しかし、お金を費やして、果たして本当に物事の大切な側面を知ることができているかはわからないものです。

インターネットで得られる情報は、誰でも見れます。誰もが、効率ばかり、最短距離ばかりを求めていては、誰もが見る、同じ結果にしか到達できません。これまでの私たちを見る限り、そのような人間が創り出したAIが答えてくれる情報でさえ、物事の本質は見えないようなシステムになっているはずです。これまで、様々な人やモノに頼って、あらゆるアドバイスを受けてきたことでしょう。ただここからの道は、それらを鵜呑みにするのではなく、自ら考え、選択し、行動してください。それが楽だと言われたから、周りがそうしているからと、過ごしてきた人は、これからは自分で何が最良かを考えてください。これが物事の本質だとこれこそがブレてはいけない芯だと判断するのは自分です。行動するのは自分です。これまで保護者の方がかけてくれた言葉、先生方が教えてくれたこと、友だちとのやりとり、その一つ一つにどのような意味があったのかを振り返りながら、何が最適なのかを考え、次に進むための一手を打つ。それが大事だとわかっているはずです。しかしまだ、多くの人が一日のたくさんの時間をスマートフォンの画面の中の他人の人生を見て過ごしています。他人の人生を眺める時間にどれだけの意味があるのか、自分の限られた時間、人生を使う価値があるのか。意味などないとわかっているはずです。決して、インターネットを使ってはならないと言いたいのではありません。勉強のコツ、お金の稼ぎ方を知ったとしても、得た情報をどのように活用するかは、自分で判断してほしいのです。

自分自身が考え、正しく判断するにはまず、様々な人の話を聞くことです。これからの生活で、みなさんを悪い方向に、利用しようとする人もいます。情報を鵜呑みにせず、何が正しいことなのかは、自分で判断できなければいけません。これからの進路先で、専門分野を究めたい、仕事を覚えて自立したいと考え、様々な人の話を聞くときに、有名な教授から、先輩からそれらを教えてもらえると期待しているのであれば、あなたがそこで学べることはありません。目的もなく、目標もなく次のステップに進んではいけません。もし皆さんが、大学は人生のモラトリアム、社会に出る前の猶予期間と考えているようであれば、言うまでもなく、受け身な人にゼロから丁寧に指導する労力をかけてくれる人はいません。他人の人生や情報に流され、努力を忘れ、妥協する人生を送って欲しくありません。 

「人は社会は、本当に大切なことを決して教えてはくれません」みなさんがよく考えて選択し、自分を信じて、覚悟を決めて行動したならば、効率や効果を求めずとも物事を成し遂げられるはずです。みなさんにはその力や才能があります。報われない努力もあるでしょう。考え抜き、選んだやり方が、たとえ失敗だったとしても、考えないで、ただ漠然と過ごすよりもっと価値があります。

「人は、社会は、本当に大切なことを決して教えてはくれない」

全ては、自分で考え、判断し、自分で答えを導きなさい。

Good luck! 卒業おめでとう。これをもちまして式辞とさせていただきます。